大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 平成7年(少)230号 決定

少年 M・Y子(昭51.11.29生)

主文

この事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は、平成5年3月24日に当庁において毒物及び劇物取締法違反、占有離脱物横領、傷害保護事件について保護観察に付されたものであるが、保護観察開始当初から、深夜の帰宅や外泊を繰り返し、翌6年8月ころからは定職に就かず、暴走族関係者やシンナー仲間との不良交遊を行い、暴走族○○○○主催で平成6年12月16日深夜から翌17日未明にかけて知多半島で行われた暴走に、交際相手であるA運転の自動二輪車の後部に同乗して参加したりして暴走への参加を幾度となく繰り返すなど、放縦な生活を続けている。

以上保護者の正当な監督に服さず、不道徳な人との交際を続けており、このまま放置すれば、その性格・環境に照らして、将来道路交通法違反の罪を犯す虞がある。

(法令の適用)

少年法3条1項3号イ、ハ

(処遇の理由)

1  少年は、現在上記保護観察中であるが、名古屋保護観察所長から、平成7年1月25日上記ぐ犯事由に基づき犯罪者予防更生法42条1項により当裁判所に通告された。

2  少年は、平成5年3月24日から保護観察に付されたが、すぐに前件時からの遊び仲間であった女子暴走族○○○○○の仲間と夜遊びを再開し、時にシンナーを仲間と一緒に吸入したりするようになった。保護司の強い勧めによって何度か就労するが、いずれも長続きせず、平成6年8月ころは無為徒食状態となってシンナー吸入も頻繁になった。暴走族については、少年は、中学3年時に女子暴走族○○○○○に加入し、前件中の傷害保護事件(暴走族内の内輪もめが発端で、グループメンバーであった被害者に対し集団でリンチを加えたという事案)を機に解散状態となり、グループ内最年長である少年がリーダーを引き継いだ平成4年10月以後も同様であったため、保護観察に付された後である平成5年10月に他の有力暴走族の指示によりいったん正式に解散させられた。しかし、先輩の手前解散したままというわけにはいかず、翌平成6年7月に自分がリーダーとして再結成した。特攻服も用意し、これまでに集団暴走に30回位参加したが、そのうちほとんどは、男子の運転する単車の後部に同乗する形で参加している。特に、上記非行事実記載のとおり、平成6年12月16日深夜から翌17日未明にかけての暴走に、A運転の単車の後部に同乗して参加した(なお、少年は、暴走行為に参加していることを、母にも保護司にも秘匿していた。)。少年は、このAとは中学3年の終わりであった平成4年から同5年春にかけて交際しており、いったん中断したが、Aが地元に戻ってきた平成6年7月ころ再開し、同年10月ころから同人宅へ頻繁に出入りするようになった。Aは、知多半島を勢力基盤とする暴走族「○○○△」の副総長である。少年はAと性関係があり、同年12月ころ妊娠した。母から妊娠しないようにと再三注意されていたので、母に気づかれれば怒られると思って思い悩んで自宅に帰れず、以後Aの家に入り浸るようになった。平成7年1月に、中絶手術をするには健康保険証が必要と思って事情を隠して母から借りようとしたところ、母から使途を詮索され、借金をするつもりではないかと疑われて貸してもらえず、口論の末、母を突き飛ばしたりした。同年1月19日に手術となったが、手術直前にA運転の原付の後ろに乗って忘れ物を自宅へ取りに戻ったところ、母と保護司が居たが、手術の時間を過ぎて心が急いでいたことや、保護司の熱心さが鬱陶しくなってきていた時期だったこともあって、保護司の制止を聞かずに自宅を出た。

以上が保護観察開始後の少年の生活状況であり、少年が、保護者や保護観察による指導を軽視して、非行を繰り返していたことは明らかである。

3  少年は、3人姉妹の末子である。両親は少年が6歳の時に離婚し、10歳以上年長の姉2人は早々に結婚して別居したので、長らく母と2人暮らしである。母、姉等から甘やかされて育っており、自分を律するということができない。他人から認めてもらいたいという気持ちが強いが、能力的にあまり高くないこともあって(直近の検査結果によれば、IQ=76)主体的に行動を取ることはなく、非行を行うのも自らの意思というよりは、周囲の考えに同調してのことである。

4  これらの事情によれば、少年を施設に収容して矯正教育を施すことも充分考えられるところである。しかしながら、少年は、上記のとおり良きにつけ悪しきにつけ主体性に乏しく、友人関係によって非行に及ぶか否かが左右されやすいこと、暴走にしても、もっぱら同乗させてもらう位で、グループ内の誰も単車を保有せず、少年もリーダーを気取っていたわりには運転もへたで、自分で積極的に運転したいというほどに関心を持っていなかったこと、少年なりの理屈(18歳になったら非行をやめる。)によって暴走族を正式に引退し、同時にシンナーの吸入を止めることを決意しており、かつての仲間との交際が減っているのは明らかなこと、問題は、現在暴走族の副総長をしているAとの交際が続いていることであるが、少年も、今回初めて妊娠中絶を経験して周囲に事情を説明できず苦しみ、しかも術後6日目に少年鑑別所に初めて収容されたことが契機となって、A共々内省を深め、自分達の将来について建設的に考えるようになってきたこと、母及び保護司とも、少年の妊娠から中絶に至る悩みを今回初めて知ってその心情を理解できなかったことを反省し、今後しばらく在宅で指導していく心づもりがあることなどをかんがみると、直ちに施設に収容するというのは尚早であり、今しばらく保護観察によって在宅による指導を継続するのが相当である。

よって、少年法23条2項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 愛染禎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例